ハンドル
包丁の柄は直接握りこむ部分だけあって、包丁の使い心地に大きく影響を与えます。素材や構造など包丁の柄について、伝統の包丁ブランド、堺一文字光秀が語ります。
包丁の柄(え)がもたらす実力
まず良い包丁の構成要素を見てみましょう。
そしてこれらの構成要素の良し悪しを決めるのが以下の要素になります。
包丁の柄とその付け方は、こちらの「バランス」に関わる部分の中で最も重要な要素です。
要素 | 要素(分解) | 素材 | 鍛冶(熱処理) | 刃付け | 柄付け |
---|---|---|---|---|---|
切れ味 | 永切れ | ◎ | ○ | ◎ | |
入りやすさ | ○ | ○ | ◎ | ||
進みやすさ | ○ | ○ | △ | ||
バランス | 持ちやすさ | ◎ | |||
力の伝わりやすさ | △ | △ | ◎ | ||
メンテナンス性 | 錆びにくさ | ◎ | |||
研ぎやすさ | ◎ | △ | △ | ||
欠けにくさ | ○ | ○ | ◎ |
包丁において食材に触れるのは刃ですが、あなたに触れるのはハンドルですから、ハンドルは使い勝手を左右するかなり大切な要素と言えますね。
プロの料理人でも、「鋼材や刃つけよりもバランスが重要」とさえ考える方もいらっしゃいます。
人によって手の大きさや力が違うのですから個人差を踏まえるとなおさら重要です。
誰かにとって使いやすい包丁が、同じ仕事をするにしても使いにくいと感じることがあるとすれば、まず考えられるのは「その人にとって使いなれたバランスでない」ことです。
今回は、良い包丁の構成要素である「バランス」をさらに分解した「持ちやすさ」「力の伝わりやすさ」における、ハンドルの重要性をそれぞれ解説します。
持ちやすさ -様々な握り方に対応したハンドルか?
その理由は、刃に関しては鋼材メーカーが限られており、かなり研究が進んでいるため、これ以上進化させるのに多大なコストが必要なのに対して、ハンドルに関しては比較的オリジナルのデザインが作りやすいためです。
食器メーカー、鋏メーカー、ナイフメーカー、デザイナーなど包丁が主戦場でなかったメーカーが独自で包丁を作った場合は、例外なくハンドルのデザインを工夫してオリジナル商品を販売しています。
目をひくデザインのハンドルは数多く作られましたが、その中で機能性まで考え抜かれたハンドルは稀です。(中には今まで包丁屋が考え付かなかった、目から鱗が落ちる素晴らしいデザインも存在します)
包丁を使って行う作業は様々で、作業に合わせて握り方が変わります。
単にまな板に対して垂直に握ることはできても、野菜の皮を剥くために指だけで握れるでしょうか。
鉄棒のように握り込んで力を入れる切り方、狙いを定めて方向をコントロールするために背に人差し指を当てる握り方もあります。
包丁のハンドルは、本来どの作業も無理なく行えるように設計されているものです。
個性的なデザインのハンドルであっても、こういった機能性の観点を外すことはできません。
手の大きな外国の方が持ちやすい包丁かも?
持ちやすさに関して最近の傾向でいうと、ハンドルの大きさには注意すべきかと思います。
和食が注目されるのに比例し、包丁も外国の方々から注目を集めています。
これを機に、外国の方々に向けた包丁がたくさん出回るようになってきました。
そしてこれらのハンドルは、日本人向けのものよりも大きめに作られています。
これは大手メーカーの有名ブランドも例外ではありませんので、まずは自分で握ってみて違和感がないかを試してみてください。
力の伝わりやすさ -あなたの手の動きをちゃんと伝える?
「力の伝わりやすさ」は、切りやすさや疲れにくさに影響するため包丁を扱ううえでとても重要な要素です。
包丁のバランスの良さは、この力の伝わりやすさに大きく影響を与えます。
力が伝わりやすい包丁は、親指を中心に他の指を使って刃の進む角度と力を細かくコントロールでき、鋭い刃のポテンシャルを存分に活かせます。
包丁のバランスが良いことを表現しようとして、指一本で包丁の真ん中を支えるような写真があります。確かに刃の根元あたりに重心がくることは大切です。
ですが、本当に大切なのはその重心を中心に両側に徐々に重心を散らしていく構造であることです。
例えば、切っ先に重りをつけて、その上でバランスを整えるために柄の尻の部分にも重りをつけても、刃の根元に重心はくるでしょう。
しかし、そうするとシーソーのように頭とお尻に振り回される動かし辛い包丁になるはずです。
高級な包丁ではただでさえ重い黒檀に銀をあしらったり、洋包丁でも金属のスペーサーや尻金を施したりと様々なハンドルがあります。
こういったハンドルは、刃とのバランスが考慮され作られている場合と、単に見た目をよくするためだけについている場合があります。
バランスが考慮されていない場合はもちろん、ハンドルが重いものには注意が必要です。
逆に刃が軽すぎるものも注意が必要です。刃が軽いとバランス上ハンドルも軽くなるので、手の力だけで食材を切らなければならりません。
皮むきなど、軽くて取り回しが良い方が疲れない場合もありますが、食材を切る時などはある程度重い方が刃の重さを利用でき疲れにくくなります。
包丁選びの際は、包丁の重さのバランスに偏りがないか、自分の作業に合った重さかどうかを確認するようにしましょう。
著者紹介About the author
堺一文字光秀
田中諒
「切れ味で、つなぐ」堺一文字光秀三代目当主。 職人の技術と歴史、そして包丁にかける思いを皆様に届けて参ります。 辻調理師専門学校 非常勤講師 朝日新聞社 ツギノジダイ ライター
- 監修
- 一文字厨器株式会社(堺一文字光秀)