砥石

包丁を研ぐ上で欠かせないのが砥石になります。

ただ砥石と言っても荒さ(番手)、素材、製法など多種多様な種類があってどれを選べばいいか分からない方も多いかと思います。

まず研ぎを覚える前に砥石について正しく知っておかないといざ研ぎ始めても思うように上手く研げず切れ味がなかなか戻らないことも多いです。

堺一文字光秀の研ぎ職人が自身で研ぎに使用している砥石を元に選び方をご紹介していきます。


日本料理の包丁・砥石へのこだわり 

砥石と言ってもほんとに沢山の種類があります。

なぜこんなに種類があるのかと考えると、日本人の包丁に対しての切れ味へのこだわりがこれほどの種類が必要とされているからではないかと思います。

日本料理(和食)は外国の料理とは異なり、素材そのものの味を最大限に引き出した料理になるため包丁に鋭い切れ味が求められてきました。

そのため独特の片刃の和包丁があり、そしてその切れ味を引き出すための研ぎの技と砥石が発達してきたのだと思います。


なのでまずはそれぞれの砥石の種類の違いを知ることが大事になってきます。

砥石の種類

砥石の種類には人造砥石と天然砥石の二種類があります。


まず砥石には大きく分類して「人造砥石」「天然砥石」の二種類があります。

人造砥石にしても、粒子の荒さ(番手)によって砥石の種類が分類されており、また主原料の砥粒(研磨剤)も数多く存在し、それを製造する製法もどんどん増えて行っています。

天然砥石に至っては自然の石ですので、同じ山から採掘してきた砥石であっても同じ品質の物が存在しません。


砥石の種類をさらに細かく分類していきますと「荒さ(番手)」「素材、製法」「砥石のサイズ」の三つの要素に分けられます。

特にその中でも荒さ(粒子)、素材、製法など多種多様な種類があります。



研ぎの経験がある熟練の方でしたら自分に合った砥石はご存じの方も多いかと思います。

ですが、包丁を研いだ事のない初心者の方にはどのように違いがあるのか分からないかと思いますので、詳しくご説明します。

関連記事

砥石の荒さ(番手)とは

まず砥石を選ぶ中で一番重要なポイントが砥石の番手(粒度)です。



番手とは、砥石の粒度の粒子の大きさのことで、「#」の後に数字を入れることから包丁の世界では番手と呼んでいます。

この番手の数字が小さいほど粒度が荒くなり、逆に大きくなるほど粒度も細かくなります。

砥石の荒さの違いが研磨力の差つまりはどれだけ良く研げるかが変わってきます。



そして荒さの違いで砥石の種類が「荒砥石」「中砥石」「仕上げ砥石」の三種類に分けられています。


荒砥石

三種類の砥石の中で一番荒いのがこの荒砥石になります。

番手では#80~#400前後になり、基本的には#200が標準の番手になります。

そのため研磨力が高く、刃こぼれを直したり、刃の形状を直したりするときに使用します。

中砥石

研ぎの標準となる砥石でまず最初に揃えるならこの中砥石になります。

番手は#1000前後になります。

荒砥石で研いだ研ぎ傷を取り除き、刃先を細かく滑らかに整えます。

基本的にこの砥石で切れるように刃を付けます。

仕上げ砥石

その名の通り最後の仕上げに研ぐ時に使用する砥石です。

番手は#2000から上の物が全て仕上げ砥石になり、#10000を超える番手まである幅広い種類があります。

中砥石で研いだ傷を取り除くことが出来る細かい砥石で、繊細な切れ味が求められる和包丁(柳刃包丁など)に使用する場合が多いです。

砥石の素材、製法とは


砥石の主原料である砥粒(研磨材)にはじまり、砥粒を結合させる結合剤、そしてそれらを成形し焼き固める製法など多種多様な種類があります。

特に切れ味が重視される日本の包丁は硬度が非常に高くなるため、砥石により研磨力が求められ、また天然砥石のような仕上げも必要なため各砥石メーカーが試行錯誤の上開発されてきました。

それによって包丁や研ぎ師との相性によってさまざまな砥石を選べるようになっております。

関連記事

砥石の砥粒(研磨材)の種類

砥石の主原料となるもので、刃を研磨するのに必要な粒子でさまざまな種類がありそれによって硬度や粘りが変わります。

砥粒は大きく二つに分類され「一般砥粒」「超砥粒」に分けられます。

一般砥粒

普段目にしている砥石のほとんどがこの分類の砥粒を使用しており、価格も手ごろに作れるため良く普及している材料です。

主に「アルミナ質(A)」「炭化けい素質 (C)」を中心に様々な種類があり、それらの粒子が角ばっていたり、丸まっていたりと、硬さが異なったりすることによって砥石の性質が変わってきます。

超砥粒

ダイヤモンドやCBN(ホウ素)などを原料として作られる砥粒で、非常に硬度が高く耐摩耗性に優れている反面価格が高くなります。

元々は超鋼、セラミック、ダイヤモンドなどの高硬度の素材を研削するための物でしたが、現在では包丁用としても製造されることが多くなってきました。

砥石の結合材と製法

主原料である砥粒を固めて砥石になるのですが、砥粒同士を結合保持するために結合材が必要になります。

簡単に言いますと結合材とは砥粒をくっつけるボンドになります。

そしてそれらを焼き固めるのですが、現在では砥粒と同じくさまざまな製法がある上に、砥石の性質を大きく左右するのはこの結合材と製法によるものです。

そのため各砥石メーカーも砥石を製造する上で結合材による製法が最も重要視されています。


その製法ですが、代表的なものが「ビドリファイド」「レジノイド」「マグネシア」の三種類になります。

特徴種類
ビトリファイド・砥石の中で最も研削性があり、高い研磨力が最大の特徴。

・気孔が多くあり、表面の目詰まりが少ない。
堺一文字光秀 特選 ツバ印シリーズ
レジノイド・吸水性が低く、水を吸わないので研ぐ前に水に浸ける必要がない。

・砥石の弾力が有り、研いだ時の刃当たりが良くきめ細やかな仕上がりになります。
堺一文字光秀 特選 煌シリーズ
マグネシア・研削性が高いうえ、天然砥石のようなきめ細やかな仕上がりに研ぎ上げられることが出来る。

・レジノイドと同じく吸水性が低いので、研ぐ前に水に浸ける必要がない。
シャプトン製 セラミック砥石

天然砥石と人造砥石

天然砥石とは


砥石はもともとは自然ん鉱山から採掘された砥石である天然砥石を主に使用されてきました。

しかし天然資源である天然砥石には採掘される量には限りがあり年々採掘量は減少してきており、その代わりに増加してきたのが工業用の砥粒で作られた人造砥石になります。

人造砥石自体は19世紀頃にアメリカで研磨材を成形されたのが始まりとされ、現在では刃物のみならずほとんどの研磨に人造砥石が使用されています。

人造砥石がこれほど増加してきた理由は2点あります。それは品質が安定していることと、工業用の特徴である規格がしっかりと決められた事です。

その規格によって、砥石の番手(粗さ)や材質や製法を、使い手が用途に応じて選べるようになりました。

逆に天然砥石は個体によって一つ一つの品質にムラがあり、また流通量が年々減少しており希少価値の有るものになってしまい高価なものとなり一般的なものではなくなってきました。

しかし天然砥石は包丁をより美しく仕上げ、なにより繊細に仕上げられた刃先は切った断面も美しく見せることが出来ほどの切れ味が天然砥石の魅力となり、より研ぎを追及する愛好家の中で愛用され続けています。

関連記事

砥石の選び方

砥石の荒さ(番手)の選び方

砥石の種類には「荒砥石」「中砥石」「仕上げ砥石」の三種類がありますが、それぞれに決まった役割があります。

荒砥石  中砥石  仕上げ砥石
#80~#400#1000前後#2000以上
刃こぼれ・型直しの時に使用する刃を付けるときに使用する小刃引きや裏押しに使用する

そのため可能ならこの三種類すべてを揃えてもらうことが理想です。

しかし研ぎ慣れていない内は三種類すべてを揃えると言うのはやはり大変だと思います。

三種類の中で一番最初に選ぶのでしたら「中砥石」になります。

まだ研ぎ慣れていない方や、初めて砥石を買われるのでしたら最初は中砥石ひとつだけでも大丈夫です。

その次に選んでいただくのでしたら「荒砥石」になります。

中砥石だけで研ぎ進めて行きますと、必ず包丁は刃先に厚みが出てくる上、刃の形が崩れてきます。

その時には中砥石だけでは修正不可能ですので、その時に荒砥石が必要となってきます。

最後に「仕上げ砥石」を揃えられるのが良いですが、和包丁などは「小刃引き」や「裏押し」などの研ぎが必要になるため荒砥石と同時に購入されるのも良いかと思います。

揃える順番としては「中砥石」→「荒砥石」→「仕上げ砥石」の順番で揃えることをお勧めします。

砥石の素材、製法の選び方

人造砥石は基本的に三つの要素で構成されており、「砥粒(研磨材)」「結合材」「気孔」によって組み合わされています。

この三つの要素の中で重要になってくるのが「結合材(製法)」になります。

結合剤は砥粒を結合するだけの物と思われていますが砥粒と同じくさまざまな種類がある上に、砥石の性質を大きく左右するのはこの結合材によりもので、各砥石メーカーも結合材による製法が最も重要視しています。

その製法ですが、代表的なものが「ビドリファイド」「レジノイド」「マグネシア」の三種類になります。

製法特徴用途
ビトリファイド可溶性粘土や長石などのセラミック質、ガラス質を1000度を超える高温で焼き固めたもの・砥石の中で最も研削性があり、高い研磨力が最大の特徴。

・気孔が多くあり、表面の目詰まりが少ない。
荒砥石に最適
レジノイド

フェノールやエポキシなどの合成樹脂を200度前後の比較的低温で焼き固めたもの・吸水性が低く、水を吸わないので研ぐ前に水に浸ける必要がない。

・砥石の弾力が有り、研いだ時の刃当たりが良くきめ細やかな仕上がりになります。
中砥石から仕上げ砥石に最適
マグネシアマグネシアセメントの結合材を焼き固めるのではなく、常温乾燥で練り固めたもの・研削性が高いうえ、天然砥石のようなきめ細やかな仕上がりに研ぎ上げられることが出来る。

・レジノイドと同じく吸水性が低いので、研ぐ前に水に浸ける必要がない。
荒砥石から仕上げ砥石まで全般の番手に最適

最初はどれを選べばいい?

初めて砥石を買われるのでしたら、はじめは「ビトリファイド」を選ばれるのがいいと思います。

実は砥石は気温の変化や湿度の変化に弱く、それを知らないまま砥石を使っていくと砥石が割れてしまったり、ヒビが入ったりしたと聞く事が良くあります。

その中でもビトリファイドの砥石は経年変化が少なく、砥石が割れることが少ないので初心者の方には比較的扱いやすくお勧めです。


砥石のサイズ選び方

砥石メーカーによって若干異なりますが、人造砥石にはサイズの規格がありそれによって大きさが決められています。

その中で代表的なサイズが「一丁掛け」「二丁掛け」「三丁掛け」の3種類があります。

一丁掛け二丁掛三丁掛け
205×50×25(mm)205×50×50(mm)205×75×50(mm)
研ぎ慣れていない初心者の方にはこちらの砥石がいいです。研ぎをする頻度が多い方は砥石が良く減りますのでこちらのサイズがいいです。
大きいサイズの包丁や蕎麦切り包丁など幅が広い包丁を研ぐ方にはこちらのサイズがいいです。

研ぎ職人のおすすめの砥石

研ぎ職人のお勧めの砥石



上の説明を見ても、やはりどの砥石を選べばいいか分からない方、自分が使っている包丁に合う砥石が欲しいからに、研ぎ職人がそれぞれの包丁や用途に合ったおすすめの砥石をご紹介します。

     荒砥石     中砥石    仕上げ砥石



和包丁



炭素鋼


  GC 荒砥石 #220


  煌 中砥石 #1000


  煌 仕上げ砥石 #8000


ステンレス鋼


  GC 荒砥石 #220


  煌 中砥石 #1000軟口


  煌 仕上げ砥石 #4000
洋包丁


炭素鋼


  PA 荒砥石 #220


  煌 中砥石 #1000軟口


  煌 仕上げ砥石 #4000


ステンレス鋼


  GC 荒砥石 #220


  煌 中砥石 #1000軟口


  煌 仕上げ砥石 #4000
家庭用

  PA 荒砥石 #220


  煌 家庭用両面砥石



以上がおすすめの砥石になります。

これらの砥石は私自身が包丁を研ぐ時によく使用しており、各種類の包丁の鋼材や構造にはあっていると思います。

もちろん鋼材の性質やフィーリングで、他の砥石を使用することも多いです。

もし自分に合う砥石を探しているのでしたら、いつでもご質問は受け付けています。

砥石のお手入れ

砥石の包丁と同じくメンテナンスが必要です。


ご存じの人も多いと思いますが、包丁を研いでいきますと刃だけではなく砥石も同じように削れて減っていきます。

砥石を全面に使って研いでいけば均等に減っていくのですが、そんなわけにもいかず大体が砥石の真ん中がくぼんだようにへこみます。

この状態で研いでいきますと、思うように研げないあまりか刃の型崩れの原因にもなりますので、砥石は常に平面に戻していかないといけません。

そのため砥石全面を削って面直しをすることが必要です。

著者紹介About the author

堺一文字光秀

渡辺 潤

自社ブランド「堺一文字光秀」の販売、包丁研ぎ、銘切りをしており、その視点から感じたことや疑問を皆様にお伝えさせていただきます。

監修
一文字厨器株式会社(堺一文字光秀)
〒542-0075 大阪府 大阪市中央区難波千日前 14-8