研ぎ方

良い包丁を使いたいと言う方はたくさんいると思いますが、いくら包丁自体が良いものでもそれだけではダメなのです。
どんなにいい包丁でも使い続けていく内に切れ味がどんどん鈍ってきて切れなくなっていきます。

そのまま放置していても切れ味が戻ることは有りませんので、きちんと研ぎ直しをしないといい包丁でも宝の持ち腐れになってしまいます。

ただ正しい研ぎ方を知らずやみくもに研いでも決して切れ味が戻ることは有りませんし、下手をすれば逆に包丁をダメにしてしまう恐れもあります。

まずは正しい研ぎ方を覚えてから研ぎを始めることで、大切な包丁をいつまでも愛着持って使い続けていくことが出来ると思っております。

最高の包丁に最高の研ぎ、この二つが合わさって初めて最高の切れ味が生まれるのです。

堺一文字光秀の包丁を研ぎ続けてきた研ぎ職人が研ぎの基本からご紹介していきます。

包丁を研ぐ前に

包丁を研ぐためにはまず安定した研ぎ場を作る必要があります。

研ぎは力作業ですので、グラグラした不安定な研ぎ場ですと怪我にも繋がりますので、必ず安定した場所で研いでください。

家庭で研ぐなら

家で研がれるならやはりキッチンで研ぐのがいいかと思います。

水が大量に必要になりますし、シンクがあるので研ぎ汁を簡単に洗い流すことが出来るうえに作業台の高さが研ぎ易い高さになっていますのでお勧めです。

家庭で包丁を研ぐなら



まずは台の上に濡らしたタオル(汚れても良い物)をひいてその上に砥石を置いてください。
台の上に直接砥石を置くと研いでいる最中に砥石が動く可能性がありますので危険です。

研ぎ場を作るなら

きちんと研ぎにこだわりたいのでしたら専用の研ぎ場(台)を作るのが良いかと思います。

キッチンで研ぐのも出来ますが、やはり汚れが気になったり場所をとったりしますので、研ぎ台があれば自由な場所で研げますので便利です。

専用の研ぎ場(台)を作るなら



用意するものはしっかりと水が大容量入る大型の番重やコンテナと砥石を乗せる砥石台があれば十分です。

砥石台は木製でもプラスチック製(衛生面を考えるとこちらがおすすめ)のどちらでも大丈夫ですが、厚みが薄いと台がしなって安定しないので厚みがしっかりあるものがいいです。
裏面には台が動かない様すべり止めを作ります。

そして一つアドバイスとして砥石台を平坦にするのではなく、後ろを上げて前を下げた斜めの台にすることをお勧めします。

台を斜めにしたほうが、研ぎの角度が安定し易く、また研ぐ時のストロークもスムーズに動かすことが出来ます。

汚れには注意です

研ぎ始めれば分かりますが、包丁研ぎをすると研ぎ汁などで服がとても汚れます。
そのため研ぎを擦る時はエプロンをするか汚れてもいい服で研ぎをするほうがいいです。

また研ぎ終わりは指と爪がとても汚れます。特に爪の中は研ぎ汁で真っ黒になりますので爪ブラシなどあれば便利です。

砥石について

砥石の選び方

まずは「中砥石」を選んでください。

砥石と一言で言っても様々な種類があります。

研ぎ慣れている人ならともかく初心者には最初どの砥石を選べばいいか分かりません。

砥石に種類はまず粗さ(番手)によって「荒砥石」「中砥石」「仕上げ砥石」の三種類に分類されます。

もちろんこの三種類には研ぎの役割があるのですべて揃えてもらう事が理想ですが、初めての方でしたらまず「中砥石」が一つあれば大丈夫です。

荒砥石  中砥石  仕上げ砥石
#80~#400#1000前後#2000以上
刃こぼれ・型直しの時に使用する刃を付けるときに使用する小刃引きや裏押しに使用する



研ぎ進めていく内に他の砥石も必要になっていく時があればその時に買い足せばいいかと思います。

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研ぐ前に砥石はしっかりと水に浸けてください。

砥石は水を含んでいない状態で研いでも研ぎ汁が出ないのでまったく研げません。

それどころか表面の砥粒が目詰まりをしてしますのでさらに研げなくなります。


そのため研ぐ前に砥石に水分をしっかりと含ませるために水に浸けておきます。

砥石を水に浸けますと最初は砥石から泡が出てきますので、泡がなくなるまでつけておきます。時間の目安としてはおおよそ5分~10分ほどになります。

砥石の種類によっては水を浸ける必要のない砥石もあります。

当社で販売しています煌シリーズの砥石などがそうなりますが、こういった砥石は逆に水に浸けてしまうとダメになる場合がありますので注意が必要です。

研ぎ方について

包丁を研ぐ姿勢

包丁を研ぐ姿勢は非常に大切です。

正しい姿勢を知らないまま研ぎますと上手く研げないばかりか、指を怪我をする恐れさえありますので危険です。

研ぐ時の包丁の握り方

包丁の握り方

包丁の持ち方は表(右面)を研ぐ時、右手人差し指から中指まで3本の指で柄を握り、人差し指で峰を親指を刃元にそえるようにしてください。

研ぐ箇所によっては人差し指を含めた4本で柄を握る事もあります。

左手の指は、人差し指と中指を包丁の刃先に押える様にします(指を押さえた下が1番よく研げます)

反対側の裏(左面)を研ぐときは左手に柄を持ち替えて同じように研いでください。

研ぐ時の包丁の動かし方

包丁の動かし方

包丁を砥石に当てる角度は砥石に対して45度に当てるようにします。

しかしこれは絶対の決まりではないので、自分の研ぎ易い角度をがあれば、45度でなくとも問題有りません。

包丁を動かす時は手首をしっかり固定した状態で、肘を柔らかくして前後に動かします。左の指は押す時にだけ力を入れてください。

研ぎの角度について

研ぎ時の包丁の角度について


研ぎの質問で最も多いのが研ぎの角度についてです。

和包丁はしのぎ筋がありそこから刃先に向かって切り刃があるので、そこに合わせて砥石を当てることが出来る角度がありますが、両刃の洋包丁にはそれがなく自分で角度を決めないといけません。

和包丁と洋包丁では研ぎの角度が違います。



じつはこの角度が非常に難しい問題なのです。

と言うのも両刃の包丁を研ぐ時に決まった角度は存在しないのです。

元も子もない言い方になってしまいますが、角度は包丁の傷み具合や使用する人の切れ味の求め方によって全て角度が変わるのです。

とはいっても初心者にその角度の調整は難しいです。

なので最初の内は研ぎの角度を10度~15度くらいにして研ぐのがいいと思います。
よく言われているのが硬貨が2枚重ねた時の角度くらいが理想です。

研ぎの角度

そして研ぎ慣れていく内に自分の理想の角度を見つけていくことが大事になります。

どこまで研げばいいのか

研ぎの角度と同じくよく質問されるのがどこまで研いでいいか分からないと質問されます。

結論から言いますと刃先に砥石が当たるまでです。刃先まで研がなければ何回研いでも切れないままです。


包丁はどこまで研げばいいのか


刃先まで研げているのを確認する目安はかえりを確認することです。

研ぎ進めて行くと研いでいる反対面の刃先にざらつきが出てきます。これを「かえり」といい刃先まで研ぎきった金属が反対側にめくれてきます。

これが出てくると刃先まで砥石があたっている状態です。

包丁のかえり


研ぎがだんだん上達してくれば、そのかえりに加えて刃先の状態を目で見て研げているか確認出来ているようになってきます。

当社の研ぎ師も刃先の砥石の当たり具合を光の加減で見極めて研げているか確認しています。

切っ先と刃元の研ぎ方

砥石は表面が平になっています。
一方包丁はほとんどがアールのついた形状をしており、真っすぐ研ぎ進めて行きますと直刃の刃になってしまいます。

切っ先と刃元の研ぎ方



そのため切っ先と刃元の形が崩れてしまい包丁の正しい形を失ってしまいます。

切っ先を研ぐ時は柄を持ち上げて、刃元を研ぐ時は柄を下げます。

切っ先を研ぐ時

切っ先を研ぐ時は柄を少し持ち上げて、左指を切っ先付近に指を当てて軽い力で研いでください。

刃元を研ぐ時

刃元を研ぐ時は切っ先とは逆に柄を下に下げて、右指の親指に少し力を入れて研いでください。

ハマグリ刃について

研ぎが上達していくと、もっと切れ味を良くしたいと思う方も多いと思います。
そのため刃の角度を寝かせて薄く研いで刃を鋭くしていきます。

確かにこう研げば良く切れる刃になりますが、包丁は本来ただ切れ味が鋭ければ良いというわけではありません。
鋭すぎる刃というのは、刃先が非常に薄いのでとても脆くとても刃が欠けやすい状態になっており、また刃先が傷みやすく刃の持続性も落ちてしまいます。

そして薄く研いだ刃いわゆるベタ研ぎにした刃は、食材との接点が非常に多く身離れがとても悪くなってしまいます。

そのため研ぎの一つの技としてハマグリ刃と言う研ぎ方があります。

ハマグリ刃の研ぎ方



ハマグリ刃とは刃先が微妙にカーブ状になって、ちょうど蛤の表面のようなふくらみを持つ状態の刃のことです。
このように刃を平(ベタ研ぎ)に研ぐより、少し丸みががって研いでいくことで刃の薄さを維持しつつ刃先に少し厚みを持たせた研ぎ方になります。

これによって切れ味の鋭さと刃の耐久性を両立した研ぎになり、刃こぼれをしにくくなり、なおかつ身離れが良い刃になります。

ただこの研ぎ方は高度な技術が必要で初心者にはお勧めしません。
研ぎが上達してからハマグリ刃にチャレンジするのが良いかと思います。

また包丁の種類、用途によってハマグリ刃の大きさが変わりますので、各研ぎ方のページを参考にしてください。

小刃引きについて

これよりご説明する研ぎ方はプロ用の上級者向けの研ぎ方になります。

薄い研いだ包丁の刃先はじつは必要以上に薄くなっている状態です。
そのため切れ味が鋭くなる反面、刃が非常に欠けやすくなりまた刃の持続性もそれほど高くなりません。

そこで小刃(糸刃)引きをいう小さな二段刃を作り刃先の強度を上げた研ぎ方があります。

小刃引きの研ぎ方

小刃引きの研ぎ方

小刃引きをする場合は砥石はで必ず仕上げ砥石にしてください。
荒砥石や中砥石で小刃引きをすると必要以上に研げてしまい、逆に刃が厚くなり過ぎます。

研ぎ方は刃を45度くらいに大きく立てて軽い力で前に刃先を滑らすように研ぐだけです。
力を入れ過ぎて研いだり、何回も研ぎすぎたりしても刃先が厚くなりますので注意が必要です。

また手首は必ず固定して角度を一定にして研いでください。

刃先に白い線が見えるのが小刃です。

小刃引きをした後の刃先には白い線がうっすらと見えますが、それが小刃(糸刃)になります。

この小刃が有ることによって刃先が強靭になり、切れ味と耐久性を両立した刃に仕上がります。

各包丁の研ぎ方

各包丁の研ぎ方があります。

包丁には片刃、両刃があり、刃の厚い包丁薄い包丁など様々な形の包丁がございます。
さらに食材の違いなどで切り方も多種多様です。

それぞれに合った包丁の研ぎ方がございますので、ひとつひとつご説明いたします。

和包丁の研ぎ方

和包丁はほとんどが片刃に作られている包丁です。

その名の通り片方から刃が付けられている包丁で、表面のしのぎ筋と言われる箇所から刃先に向かって研がれている切り刃が片刃の刃になります。
なので和包丁はこの切り刃の箇所を研いで刃を付けます。

そして和包丁の裏は全体が凹んでいる(裏スキ)状態で作られており、裏研ぎ(裏押し)をするときは刃先が均一に当たるように作られています。
和包丁を研ぐ上で一番気を付けていただきたいのが、裏を研ぎすぎないという事です。

洋包丁の研ぎ方

洋包丁は和包丁とは逆に両刃に作られている包丁が多いです。

ただ本格的な洋包丁は、完全な左右対称の両刃に研がれているわけではありません。
右面は丸みがきつく、左面は平らに近い丸みに作られています。(※左利き用は逆)
これに合わせて右面を7割程度、左面を3割程度に研いで行きます。

和包丁に比べ、よりはまぐり刃に作られています。

家庭用包丁(三徳包丁)の研ぎ方

家庭用包丁の研ぎ方は基本的には洋包丁(牛刀)の研ぎ方と同じ研ぎになります。
良く切れるような包丁に研ぎたいのでしたら「洋包丁の研ぎ方ページ」の研ぎ方を参考にするのが良いです。

ですが、この研ぎ方は研ぎ慣れていない初心者のかたには難しいかと思います。
そのために少し研ぎ方を簡単にした家庭用包丁の研ぎ方をご紹介します。

著者紹介About the author

堺一文字光秀

渡辺 潤

自社ブランド「堺一文字光秀」の販売、包丁研ぎ、銘切りをしており、その視点から感じたことや疑問を皆様にお伝えさせていただきます。

監修
一文字厨器株式会社(堺一文字光秀)
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