V金10号(V10/VG10)

切れ味に特化した素材であるV金10号。その切れ味は鋼にも引けを取らないといわれています。V金10号の包丁について、伝統の包丁ブランド、堺一文字光秀が語ります。


万能のステンレス鋼

ステンレスはどうしても錆びる炭素鋼に比較し、砥石にかかりにくい特性を持ちます。

詳しい話は下記のリンクからどうぞ

しかしV金10号はその切れ味もさることながら、研ぎやすさと切れ味の持続性を兼ね備えた、非常にバランスの良い刃物鋼と言えます。

もちろん包丁の実力は素材と工程で決まりますので、工程次第ではあるものの適切な焼入れと研磨が施されたVG10は、非常に良い鋼材と言えます。

鋼材マッピング図から見るV金10号(VG10/V10)

まず、鋼材が包丁の実力にどう影響するかを把握しておきましょう。

鋼材熱処理・鍛冶刃付け柄つけ
切れ味
バランス
メンテナンス性

上記の図でお伝えしたいことはこの3点です。

・鋼材は切れ味とメンテナンス性(研ぎやすさと錆びにくさ)に大きな影響を与える

・切れ味には鋼材だけでなく熱処理、刃付けも大きな影響を与える

・包丁の実力は重量のバランスやメンテナンス性も合わせて評価する必要がある


鋼材マッピングで鋼材V金10号を見ると、こんなところになります。

鋼材マッピング(VG10)

V金10号に含有されるコバルトの作用か、先が丸くなってしまっても食材に切り込んでいく(甘切れと呼びます)ため、

とても切れ味が長続きし、かつこの硬度を誇る包丁の中でも研ぎ良さがあります。

※表と矛盾してしまうのですが、焼き戻しの仕方次第ではVG-1よりも研ぎやすくなります。

ステンレスで、切れ味が良くて長続き、かつ研ぎやすさも兼ね備えたオールマイティな鋼材と言えます。

成分表から見るVG10

※比較がしやすいように、公開されている値に幅がある場合は最大値や中央値を記載しております。

他のステンレス鋼と比較して特徴的なのは、コバルト(Co)が含有されている点です。

焼入れ硬度もHRC60と(こちらは焼戻しをどの程度するかにもよりますが)ステンレス鋼の中ではトップクラスです。

粉末ハイス鋼のほうが良い素材?

白一鋼の焼入れを適切に入れるのは非常に難しいとされている


粉末ハイス鋼はステンレスの中でも最高級に分類され、その硬度も63以上あるものも珍しくありません。

「じゃあVG10より粉末ハイスのほうが切れ味良いですよね?」と聞かれることは非常に多いです。

答えは「YESでもあり、NOでもある」というところでしょうか。


もちろん「切れ味」は「味」と言われるだけあって使い手の感覚次第ではありますが、

粉末ハイスは研ぎ上げた時の切れ味は空恐ろしくなるほど鋭い反面、
一度刃先が潰れてしまうと切れ止むと早いです。

一方でVG10は、刃先が丸くなってしまった後も食材に切り込んでいくような感覚があります。

硬度や鋼材価格だけでは測れない、刃物の奥深さを感じますね。

まとめ

・VG10は切れ味と研ぎ良さを併せ持つ理想的なステンレス鋼

コバルトの含有により切れ味が長持ちする

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著者紹介About the author

堺一文字光秀

田中諒

「切れ味で、つなぐ」堺一文字光秀三代目当主。 職人の技術と歴史、そして包丁にかける思いを皆様に届けて参ります。 辻調理師専門学校 非常勤講師 朝日新聞社 ツギノジダイ ライター

監修
一文字厨器株式会社(堺一文字光秀)
〒542-0075 大阪府 大阪市中央区難波千日前 14-8