青紙スーパー鋼
包丁の素材「青紙スーパー」まさに最高の切れ味
白紙にクロムやタングステンを添加して、耐摩耗性や靭性を高めた素材が青紙です。青紙の炭素とクロムの量を調整し、硬度や耐摩耗性を高めた最高級素材といわれるのが青紙スーパーです。青紙スーパーの包丁について、伝統の包丁ブランド、堺一文字光秀が語ります。
ロマンが詰まった最高硬度の鋼
安来鋼最高硬度、67を誇る青紙スーパー。タングステンやクロムだけでなく、ステンレス鋼に使用されるモリブデン、バナジウムも添加されており摩耗に対する耐性は他の鋼の比ではありません。
刃物が鋭さを保持するにあたって硬度は非常に重要なため、硬い=切れるということで青紙スーパー鋼の人気は高いです。
とにかく硬い暴力的とも言える切れ味
刃が減りにくいため非常に長く切れ味を保持します。
この硬度なので柔らかい砥石で繊細に刃を仕上げる、という作業が難しく、その硬さで成形、研磨も(つまり作るのも研ぐのも)難しい包丁です。
硬さで切るという刃先の構造(小刃が強い)になっている包丁が非常に多く多少硬い食材でもものともしません。
鋼材マッピング図から見る青一鋼
まず、鋼材が包丁の実力にどう影響するかを把握しておきましょう。
| 鋼材 | 熱処理・鍛冶 | 刃付け | 柄つけ |
切れ味 | ○ | ◎ | ◎ | |
バランス | | △ | △ | ◎ |
メンテナンス性 | ◎ | ○ | ○ | |
上記の通り、
・鋼材は切れ味とメンテナンス性(研ぎやすさと錆びにくさ)に大きな影響を与える
・切れ味には鋼材だけでなく熱処理、刃付けも大きな影響を与える
・包丁の実力は重量のバランスやメンテナンス性も合わせて評価する必要がある
ということは理解しておきましょう。
上記の鋼材マッピングで見ると、こういったポジションになります。
日本で製造される鋼の包丁の中では非常に高価な部類に入りますが、段違いの硬度と耐摩耗性を誇ります。
この青紙スーパーのポテンシャルを活かす焼入れを経た包丁は、いつもの砥石でいつものように研ぐと驚くほど滑ります。砥石への投資や研ぐ時間がおしい人にはおすすめできません。
成分表から見る青紙スーパー鋼
和食用の包丁で人気のある日立金属の白二鋼に比較すると、炭素の含有量が大幅に多く、またタングステンやクローム、バナジウムまで添加されていることがわかります。
組成だけ見ても頑強な切れ味が伺い知れます。一方で硬度と対摩耗性に振り切っているので、永切れはしますが砥がれにくい素材と言えます。
他の鋼なら繊細な刃先を平砥石で作れる一方、しっかり焼きが入っている青紙スーパー鋼は、荒砥を使って刃先の構造を作るのに多大な時間を費やします。
逆に「そんなに研ぎにくくもない」という包丁があるのであれば、焼きを甘めにしたり焼き戻しを多めに入れて青紙スーパーの硬度を意図的に下げている可能性があります。
最強の鋼材を使っている、という事実があってもそのポテンシャルを活かさないのであれば他の鋼材で良い気もしますね。
青紙スーパー鋼がおすすめな方
最高硬度の鋼を使ってみたい、という方にはおすすめします。
また分厚い小刃を作って食材をどんどん切断する、という使い方をすると刃が摩耗しにくいためずっと切り続けられます。
青紙スーパー鋼のデメリット
しかし包丁としてバランスが良い鋼材か、と言われると難しい部分があります。
その高い炭素含有率で錆びやすく、ステンレスに出る錆びと近しい、小さな穴が中に進むような錆び方をします。
繊細な刃を作ろうとすると多大な労力が必要。かつ繊細な刃では靭性が無く欠けやすい。かつ欠けてしまったが最後、「極限まで硬く、摩耗に強い素材」の修理にかかる労力は言うまでもありません。
良い包丁として重要なメンテナンス性に欠けます。※良い包丁の要素はこちら
また包丁が非常に好きなお客様に購入いただいた際(そういったお客様向けの鋼材です)そのポテンシャルを発揮させようと時間をかけて研ぎあげられたそうなのですが、硬度が高すぎて、まな板に食い込んでしまいいつものように包丁が使えなかったとのことでした。
刃物マニア向けのロマンが詰まった鋼材
この図だと右上にあればあるほど良い刃物に見えてしまいますが、決して万人に向く鋼材とは言えません。青紙一号、白紙一号や粉末ハイスの包丁をお持ちの方や、「どんな砥石でどう研ぐとどんな刃がついた」というような話をずっとし続けられるような方に向けた包丁です。
弊社の作業場であれば形を整えるための工場で使われる回転砥石がありますが、普通家や職場にそんなものはありません。
持っている砥石を見直し、日夜研ぎを練習することになるでしょう。ここまで書いても文章を読んでしまう、「安来鋼の最高硬度鋼材をそれでも使いたい」というような方に向けた鋼材です。
青紙スーパーの包丁を見る
まとめ
・青紙スーパー鋼は安来鋼最高硬度を誇る「スーパー」な鋼
・その硬さと摩耗耐性で砥石と研ぎ手を選ぶ
・多少甘い刃でもどんどん食材を切れ、切れ味が落ちない
著者紹介About the author
堺一文字光秀
田中諒
「切れ味で、つなぐ」堺一文字光秀三代目当主。 職人の技術と歴史、そして包丁にかける思いを皆様に届けて参ります。 辻調理師専門学校 非常勤講師 朝日新聞社 ツギノジダイ ライター
- 監修
- 一文字厨器株式会社(堺一文字光秀)