包丁の製造工程
長年多くの職人たちが積み重ねてきた包丁造りの技。伝統を守りながらも、最新技術を取り入れ進化し続ける包丁の製造工程について、伝統の包丁ブランド、堺一文字光秀が語ります。
なんで製造工程が大事なの?
一言で言うと、製造工程が包丁の実力を大きく左右するからです。
まず、鋼材が包丁の実力にどう影響するかを把握しておきましょう。
| 鋼材 | 熱処理・鍛冶 | 刃付け | 柄つけ |
切れ味 | ○ | ◎ | ◎ | |
バランス | | △ | △ | ◎ |
メンテナンス性 | ◎ | ○ | ○ | |
この図における太字部分が製造工程にあたります。
料理だと、素材、下ごしらえ、調理、味つけ全て揃って美味しい料理になりますよね。
包丁も全く同じです。鋼材(素材)、熱処理や鍛冶、刃付け、柄つけ(工程)が揃って初めて良い包丁になります。
別に手を抜いても料理と言える、けど美味しくなかったり、飽きやすい味になってしまったりはしますよね。包丁にも全く同じことが言えるわけです。
高い包丁と安い包丁は工程が違うことが多い
安い包丁は工程でコストカットされることが多いです。上の図に沿って考えると、「切れ味、バランス、メンテナンス性」にコスト上の問題でこだわり切れません。一番見た目でわかりにくく、価格に転嫁しにくいのです。いくつか「安価なのに高品質」とのからくりを挙げさせて頂きます。
研ぐことを想定していない
「技術革新で課題を乗り越えた」というストーリーはいつの時代も魅力的ですし、我々も追求していきたいところです。ただ、包丁は200万年人間が使い続けてきた原始的な道具で、「薄くしたい」「固くしたい」という矛盾した追求が行われています。それを「解決した」という言い方をされていたら、ちょっと注意した方が良いでしょう。
コーティング
新技術として、1-2万円の包丁で散見されるパターン。コーティングが耐久性や切れ味の秘密だったり、模様が魅力的だと思った場合は要注意です。研げないか、研げば剥がれるかいずれかです。「特製ロールシャープナーを使えば大丈夫」という言葉も散見されますが、包丁はテーパー形状をしていますので、いずれ側面を削らなければ分厚くて食材に入りにくい刃になります。
良い素材を大量発注し、工程を効率化する
良い素材を大量発注した場合、1.見栄えを際立たせる 2.自動研磨機の比率を上げる 3.硬度を甘めに設定する 4.厚みを残し、刃先で切れ味を作る ことでロスが少なく、良い素材を謳え、安価で、在庫が確保できる販売店にとって売りやすい商品になります。高い包丁は逆です。固く、切れ味が出るように薄く(加工を丁寧にしないと割れや欠け=ロスにつながる)、高価で、たくさんは作れなくなります。
数十年前までは、数百円で食材をカットできるような包丁も、数千円でキッチンに置いておきたくなるような見栄えの良い包丁はありませんでした。その意味での技術革新は素晴らしいと言えます。ただ、長く愛するという観点では「研げるのか、研いだらどうなりそうか」という視点も必要です。
補足:その包丁、本当に研がなくて良いの?
世の中には「研がなくて良い包丁」を謳う包丁が散見されます。 「研がなくて良い」ということは言い換えると「何度硬いものを切っても、鋭さを保てる」ということなので、とても硬いことになります。そこまで硬いものは砥石がききません。一体何で削り出して刃の形状を作ったのでしょうか。また、存在するとすればまな板に刺さって包丁についてきてしまいます。 ※青紙スーパーやZDP189の焼戻しを最小限にして、研ぎ工程にたくさん時間をかければ限りなく硬い包丁を作ることは不可能ではありません。弊社でもお客様の要望で職人と協力して作ったことがあります。しかし、まな板がくっついて非常に使いにくいようです。大変な値段になってしまう上道具として成立していないので、それからはお受けしないようにしています。。 まな板を固くすれば良い?そうですね。では刃が負けてしまうので、刃もより固くしないといけません。。。少なくとも、今の技術では数千円はもとより、数万円で研がなくて良い包丁を作ることはできませんね。
和包丁の作り方
伝統的な和食を形作る片刃の和包丁。工程は、43あります。その中のほとんどの工程が手作業で、キモになる焼入れや刃付け工程はとても難しいものです。製造工程を理解することで、あなたも自分の道具への理解が深まり、より実力を引き出せることでしょう。 和包丁作りの工程をこちらで解説しています。
洋包丁の作り方
※制作中
著者紹介About the author
堺一文字光秀
田中諒
「切れ味で、つなぐ」堺一文字光秀三代目当主。 職人の技術と歴史、そして包丁にかける思いを皆様に届けて参ります。 辻調理師専門学校 非常勤講師 朝日新聞社 ツギノジダイ ライター
- 監修
- 一文字厨器株式会社(堺一文字光秀)