コアレス鋼
コアレス鋼は性質の異なる2種類の鋼材を数十層重ねた鋼材で強度と切れ味が非常に高い鋼材です。コアレス鋼の包丁について、伝統の包丁ブランド、堺一文字光秀が語ります。
ダマスカスの常識を覆した刃物鋼
コアレス鋼は、錆びない、切れ味が良いだけでなく見た目工法ともに非常にユニークで革新的な鋼材です。
武生特殊鋼が開発したこの鋼材はCoreless®の名の通り、芯材に特定の刃物鋼を採用するのでなく、VG-10、VG-2の2種の刃物鋼を層にして作られています。
大きく2つのメリットがあると言われています。
刃物鋼を積層にしたことによる独自の切れ味
通常、刃物鋼は単一の規格で採用することがほとんどです。しかし、コアレスはVG10とVG2という、異なる硬度と耐摩耗性を持つ刃物鋼が細かく層になった素材であり、そのような特性の刃物鋼は少なくとも2000種類以上の包丁を扱う我々も他に聞いたことはありません。
かつ、包丁とは、目には判別できないほど細かいノコ刃を作ることによって食材に入り込みます。
切れ味が落ちる過程や、研ぎ直した際に硬度の違う鋼が自然にノコ刃を形成することによって、良い切れ味が持続すると言われています。
これまで刃先には出せなかった積層模様がコアレスなら出せる
ダマスカス鋼とは、積層を地金(刃物鋼を挟む軟鉄)に採用し模様を出していたものです。
よって、どれだけ高級なダマスカス鋼においても、模様は刃物鋼である刃先には届きませんでした。
しかし、このコアレスは刃物鋼自体が積層なので、当然刃先まで美しい積層模様が出ます。
鋼材マッピング図から見るコアレス鋼
まず、鋼材が包丁の実力にどう影響するかを把握しておきましょう。
| 鋼材 | 熱処理・鍛冶 | 刃付け | 柄つけ |
切れ味 | ○ | ◎ | ◎ | |
バランス | | △ | △ | ◎ |
メンテナンス性 | ◎ | ○ | ○ | |
上記の図でお伝えしたいことはこの3点です。
・鋼材は切れ味とメンテナンス性(研ぎやすさと錆びにくさ)に大きな影響を与える
・切れ味には鋼材だけでなく熱処理、刃付けも大きな影響を与える
・包丁の実力は重量のバランスやメンテナンス性も合わせて評価する必要がある
鋼材マッピングでコアレスを見ると、こんなところになります。
こうやって比較図の中で表現するとこの位置になりますが、新しい素材故今は職人もユーザーも多くなく、真価はたくさんの使い手が長く使った際まで保留すべきかも知れません。
VG10と切れ味や研ぎ味は似ていますが、たしかに切れ味が落ちるペースがゆっくりです。
成分表から見るコアレス
VG2とVG10に赤枠をつけました。見て頂けるように、組成も硬度も違う素材になります。
この硬度の差によって、微細なのこ刃が生成され続けるという理屈です。
コアレスは現状ベストな選択か?
まず、市場に出回るコアレスにはかなり品質に差があると感じます。見た目はきれいでも、鋼材のポテンシャルを引き出す焼入れをしながら歪みを抜ける技術を持った職人はそう多くないのです。
鋼材の製品硬度をギリギリまで引き出した上でハンマーの歪取りを施すと、ものすごく割れのリスクが高まってしまうため、市場にはよく見ると歪みが抜けきれていないコアレスも多いです。
研げば模様は消える
これは多くのダマスカス包丁にも共通して言えることですが、砥石の傷で模様はほとんど見えなくなります。
とくにコアレスはニッケルなどと違い「光らせる」加工ができないため、薄くぼんやりとした模様になりがちです。
当然、砥石を当てると砥石傷で模様は消えます。可能な限り
「硬度が高い焼入れが施され」
「歪みが抜けていてまっすぐ」で
「薄く刃肉が抜けている」
状態の包丁を、刃先だけ研ぐことで模様はキープできます。
ただ、当然加工に非常に手間がかかるため、市場の他の包丁の2-3倍の値段は覚悟する必要があります。
まとめ
・コアレス鋼は従来の刃物鋼を覆した新しいダマスカス刃物鋼
・硬度の違う二種の刃物鋼を層にすることで、切れ味が長持ちする
・刃先まで模様を浮かべることができる
・高価だが出回る商品の質に差が出やすい
・研げば模様は消える
著者紹介About the author
堺一文字光秀
田中諒
「切れ味で、つなぐ」堺一文字光秀三代目当主。 職人の技術と歴史、そして包丁にかける思いを皆様に届けて参ります。 辻調理師専門学校 非常勤講師 朝日新聞社 ツギノジダイ ライター
- 監修
- 一文字厨器株式会社(堺一文字光秀)