天然砥石

生産量が非常に少なくなっている天然砥石ですが、天然でしか出ない仕上がりを求めて愛用される方は少なくありません。天然砥石の産地ごとの特徴や選び方を、伝統の包丁ブランド、堺一文字光秀が語ります。

天然砥石とは

地球の悠久のときが生み出した大自然の宝物

天然砥石は何億年も昔から現代にかけて気の遠くなる時間をかけて堆積岩や凝灰岩などが積み重なって出来た地層を採掘した天然石です。

採掘される地域によって砥石の特色も変わっており、それによって研ぎの仕上がりが変わってきます。

天然砥石は包丁をより美しく仕上げ、そして繊細に仕上げられた刃先は切った断面も美しく見せることが出来ることから研ぎを極めたい愛好家の間から愛用されています。

天然砥石の魅力

現代科学の世界でも完全な解明が出来ないメカニズムがあるのが、天然砥石の魅力ではないでしょうか。

自然の物と言う人工物とは異なる分子構造で造られており、構造そのものも変化するので研ぐたびに毎回違う仕上がりになります。

そのため研げば研ぐほどきれいに仕上がり、まさにゴールのないからこそ愛好家たちの研究心がくすぐられるのだと思います。

天然砥石で研ぐ良さ

それはやはり「切れ味」の良さに限ります。

人造砥石でも上手な人間が研げば良く切れますし、場合によっては人造砥石のほうが刃が鋭く感じるときもあります。

ただ良く切れるのと、切れ味が良いのとは別物だと思っています。

切れ「味」と言うからには、切った物の味が良い

それこそが天然砥石で研ぐ本当の良さだと思います。

天然砥石と人造砥石の違い

同じ刃物を研ぐ砥石でどのような違いがあるのか。

天然砥石の性能

削る性能・時間をかけてゆっくり研ぐと良い刃が付く
・刃先の傷痕が浅い
・返り刃が出にくい
・裏研ぎで直ぐ取れる
磨く性能・地肌まで磨けて底光りする艶が出る
・刃金と地金、刃紋を浮き上たせる内曇り効果あり
仕上がりの性能・刃先硬化作用が強いので精度が良い
・錆びにくい
切れ味効果・切れ味絶妙
・長切れする
・研ぎ直しの手間が省ける
・刃物の寿命が長い

人造砥石の性能

削る性能・早く削れる
・刃先の傷跡が深い
・返り刃が出やすい
・返り刃が取れにくい
磨く性能・表面を鏡面に磨き上げることが出来る
・白光する
仕上がりの性能・刃先硬化作用が鈍いので精度が劣る
・錆びやすい
切れ味効果・最初は良く切れる
・直ぐに切れ止む
・研ぎ直しの手間がかかる
・刃物の寿命が長い

上記の違いが天然砥石と人造砥石にはあります。

天然物と人工物の違いはあるにしても、なぜ同じ研削砥石なのにこれほどの違いがあるのか?

それは砥石の主原料である砥粒によるものです。

人造砥石は主にカーボン(C)やアルミナ(A)などの砥粒を主原料として作られていますが、これらの砥粒は硬く、角が立っているので必要以上に研いでしまうのです。

番手が高い超仕上げ砥石でも、傷が残り、かえりが大きく出てしまいます。

天然砥石は砥粒が丸みを帯びており、研磨するたびに砥粒が粉砕されてより微細な粒子になるため、研ぐたびに傷が浅くなり精密な仕上がりになっていきます。

人造砥石は劣るのか?

上記のように書きますと、天然砥石の方が優れているのではないかと思ってしまいますが、優劣があるのではなく特徴が違うだけではないでしょうか。

逆を言えば人造砥石には早く研ぐことが出来る高い研削性能がメリットになります。

また人造砥石の一番の特徴である番手による荒さの規格がしっかりと決まっており、研ぐ人間の目的に合わせることが出来ます。

そのため人造砥石には「早く、目的の刃に仕上げることが出来る」と言う天然砥石にはない魅力があります。

天然砥石の産地

天然砥石は自然から採掘されるものですから、全国各地から産出されてきました。

名称地域特徴
大村砥石  和歌山県  
元々は長崎大村で採掘されていたため大村砥石と呼ばれていますが、採掘終了に伴い和歌山県白浜地域で採掘されています。
砂岩の砥石なので荒く荒砥石として使用されてきたねずみ色の砥石です。

平島砥石長崎県
長崎県平島地域にある砥石山で採掘される砥石です。
非常に砂泥が出る砂岩の砥石なので、荒砥石として使用されています。

青砥京都府
京都丹波地域で採掘される中仕上げ用の少し細かめの中砥石で、切れ味を長切れさせることが出来き、その仕上がり面の光沢が美しく、日本刀の艶出しにも使用される最高峰の中砥石です。

天草砥石熊本県
熊本県大矢野地域で現在も採掘が続いている中砥石です。
等級によって「上白(備水)」、「中白」、「虎(赤虎)」に分類されています。

伊予砥愛媛県
愛媛県伊予地域で採掘されていた柔らかめで研ぎやすい中砥石で、日本刀の研ぎにも使用されていました。

白名倉砥愛知県
愛知県三河地域で採掘される白色の中砥石で、砥石として使用されているほかに研ぎ汁を出す名倉として昔から愛用されています。

合砥京都府
京都府下にある砥石山で採掘される極上の砥石で、この粒子の細かい仕上げ砥石は世界で唯一京都でしか産出されていません。
砥石山によって特徴が変わり、世界各地に愛好家がいるほどです。

などさまざまな地域から採掘されており、その採掘地域によって砥石の特徴が異なってきます。

中でも京都で採掘される合砥は質では群を抜いており、そのきめ細やかな仕上がりは愛好家中でも評判が高い砥石です。

京都産天然砥石

今現在はほとんどが閉山しているとはいえ、もともとは全国各地で天然砥石は採掘されてきましたが、その中でも群を抜いて高い質の砥石が京都で産出される「合砥」と「青砥」になります。


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天然砥石の選び方

天然砥石の選び方ですが、正直なところありません。

唯一の選び方として自分の目で見極めることだけです。

人造砥石であれば細かく規格が分類されていますので、自分に合った砥石選びができます。

しかし天然砥石は自然の鉱山から採掘されるもので、極端に言えば採掘さえる場所が数センチでも違えばその品質は別のものとなります。

そのため良い天然砥石を選ぶには確かな砥石の知識を持っていることと砥石の色合いや層を見極めることが出来る目が必要となります。

まさに一期一会の出会いのようなものです。

天然砥石のことわざ

  • 1に商人(信用のある商人なら品質を保証)
  • 2に硬さ(硬さ、砥粒の目がぴったり)
  • 3,4は無くて(予算と相談)
  • 5は好み(気に入ったら奮発するのも得策のうち)

上のようなことわざが昔からあるそうですが、まずしっかりとした砥石屋か刃物屋で購入すること。
そしてそのお店で天然砥石に知識にある人間と自分の用途に合った砥石を選ぶ(特に硬さは重要になります)こと。
あとは上質な砥石は価格が高くなりますが、気に入ったのなら奮発してみたほうが損はしないと言った意味だと思います。

天然砥石の見極めのポイント

硬さ

  1. 水を早く吸い込むほど柔らかく、遅いほど硬い
  2. 叩いてキンキンと高い音ほど硬く、ボトボトと低い音ほど柔らかい
  3. 手にもって重たいほど目が詰まって硬く、硬いほど目が荒くて柔らかい
  4. 研いで見て研ぎ汁が白いほど柔らかく、黒いほど目が詰まっていて硬い
  5. 硬すぎると地を引きやすく、柔らかすぎると利きの鈍いのがある
  6. 見た目で硬くても研ぎあたりが柔らかいのがあり、名倉を使って面を滑らかにすると地を引かずに却って良く研げる

品質の見極め方

  1. 見たところ色や形に難がない
  2. 筋があっても刃物に当たらない
  3. 荒くても砥粒の目が立っている
  4. 割れやすくても質が良い
  5. 名倉をかければ地を引かない
  6. 硬くても粘りが出る
  7. 刃物に合って使いやすい
  8. 高くても品質に納得がいく

参考文献

「京都天然砥石の魅力」京都天然砥石組合発行

天然砥石の用語

天然砥石のことを勉強していく上で、難題のなってくるのが専門用語がとても多いことです。

その専門用語を分かりやすく解説します。

著者紹介About the author

堺一文字光秀

渡辺 潤

自社ブランド「堺一文字光秀」の販売、包丁研ぎ、銘切りをしており、その視点から感じたことや疑問を皆様にお伝えさせていただきます。

監修
一文字厨器株式会社(堺一文字光秀)
〒542-0075 大阪府 大阪市中央区難波千日前 14-8