出刃包丁の選び方
魚をさばく際には欠かせない出刃包丁。代表的な和包丁として知られる出刃包丁の選び方を、伝統の包丁ブランド、堺一文字光秀が語ります。
動画でも解説しております
良い出刃包丁とは?
選ぶ前に、良い包丁の定義について確認しておきましょう。
定義は:「長くあなたを相棒として支え、料理の腕が上がるような包丁」 です。
その要素は大きく ①切れ味、②メンテナンス性、③バランス があります。
それぞれの要素をもう少し分解したのが下記の図になります。
もっと詳しくそれぞれの要素について知りたい方はこちらの記事を参考にしてみてください。
見過ごせない「見た目」と「愛着」
3つ目のメンテナンス性ですが、他の2つよりも大切です。丁寧に扱い、メンテナンスをすることが包丁の実力を発揮する一番の要素なのです。その上で「一目ぼれ」という出会い方は非常に良いです。
使うたびに愛着をもって接すると、雑な扱い方にはなりません。
逆に言うと
「洗わない」
「乾かさない」
「食洗器で洗う」
「硬いものや解凍できていないものを切る」
こういった扱いは包丁の寿命や実力を一気に縮めます。
「良い包丁」をもたらす要素
ある程度の前提知識があれば、愛着や見た目で選んでも良いというお話でした。
ここから先は細かい話になります。
あなたにとって重視な要素はなんとなく見えてきたでしょうか?では実際にその要素を左右するものが何によってもたらされているのか見てみましょう。
ポイント(大) | ポイント(分解) | 素材 | 鍛冶(熱処理) | 刃付け | 柄付け |
---|---|---|---|---|---|
切れ味 | 永切れ | ◎ | ○ | ◎ | |
入りやすさ | ○ | ○ | ◎ | ||
進みやすさ | ○ | ○ | △ | ||
バランス | 持ちやすさ | ◎ | |||
力の伝わりやすさ | △ | △ | ◎ | ||
メンテナンス性 | 錆びにくさ | ◎ | |||
研ぎやすさ | ◎ | △ | △ | ||
欠けにくさ | ○ | ○ | ◎ |
素材(鋼かステンレスか)
素材(鋼材)は切れ味、メンテナンス性とりわけ錆びにくさ、研ぎやすさを左右する大きな要素になります。
まずは、ステンレス鋼材か鋼かを選びましょう。
こだわりや使用場所での制限が無いのであれば、出刃包丁においては鋼をおすすめさせていただきます。
おそらくここまで読んでくださっているということは、あなたは「魚をきれいに捌けるようになりたい」はずです。
そうでもない、という方、、、
「いやいや、魚さばくのは普通の包丁じゃ無理でしょ?」「一度さばいてみたいだけ」という方は、まずはお持ちの三徳包丁や牛刀でチャレンジしてみるのも良いかと思います。きれいに、効率的に、というわけでないのであれば、肉と骨を分けられさえすればどの包丁でも良いのです。
店頭にいらっしゃる方で多いのは
・仕事の現場で使う
・釣りをしている(はじめた)ので。
・魚をきちんとさばけるようになりたい。料理を学びたい。
という方々です。
ステンレスの特徴は、「錆びにくいが、高級包丁においては比較的高価で、少し研ぎにくい」です。
鋼は逆に「錆びるが、高級包丁においては比較的安価で、研ぎやすい」わけです。
ご家庭やレストランにおける三徳や牛刀は日常的に使い、置き、少し鍋の様子を見てまた使い、洗うを繰り返すため毎回錆びのケアをしなくてはなりません。出刃は使う時はできるだけ一度に使います。一度置いて別の作業をしてもう一度出刃包丁を使う、ということは少ない(減らしたい)わけです。
プロのように毎日たくさん魚をさばいたり刺身を切ったり、を繰り返すのであれば研ぎや手入れを営業終了時にされる方が多いはずです。使用頻度の多いプロの場合は、いずれにせよ最後に汚れや錆びを落としたり研いで、拭いて保管するため結果的に鋼のケアをしていただくことになります。
鋼のメリットが活きやすいのが、出刃包丁と言えるでしょう。
マッピングには鋼材価格の概念が入っていませんが、右上に行くほど鋼材の値段は上がるイメージです。
鋼でおすすめの出刃包丁
それでも、そもそも職場で錆びる包丁を禁じられていたり、鋼のケアに自信が持てない方もいるかと思います。
ステンレスでおすすめの出刃包丁
さて、いくつか包丁を見て頂きましたが、素材が同じでも値段が違うものがいくつかあることに気づいた方もいらっしゃるかも知れません。
出刃包丁、どこを見て選ぶ?
製造工程は大きく鍛造や焼入れの熱処理(鍛冶)工程と、成型研磨(刃付け)工程に分かれます。
同じ鋼材でも、この工程で実力も価格も大きく変わります。
裏スキ
まずは裏スキです。和包丁の要とも言える形状で、裏押しという作業で鋭い刃に仕上げることができます。(和包丁の研ぎ方はこちら)また、食材に刃が入る際に圧力を逃がす効果もあるため、切れ味が向上します。安価な包丁は、裏スキが無いものが多いです。
刃元と刃先の差
出刃包丁は、骨を切断する用途があります。刃元に欠けに強い鈍角の刃が無いと欠けやすくなってしまいます。
また、先のあたりは骨と肉の間を滑り込ませるためにある程度薄くしておきたいところです。
この部分があまりにも凹凸があるものも、研ぐ時にムラになりやすいため留意しましょう。
※最初はまっすぐに当てるとムラは出るのですが、使うに従って徐々に平らになってきます。
出刃包丁のサイズ
「マチ」を含まない刃渡り規格
少しややこしいのですが、出刃包丁は刺身包丁などとサイズ規格の考え方が異なります。
以下の図にまとめたのですが、要は出刃包丁は刃渡りがそのままサイズ規格に対応します。
作り手側では「まち」を作るためにも処理が必要なので、処理が施された寸法に対応した価格設定をしたい、という背景で浸透しているという説があります。
捌く魚の大きさに応じてサイズを選ぶ
出刃包丁のサイズは、捌く魚のサイズによって決めます。あくまで目安ですが、上の図を参照に選んでください。
魚屋、市場や加工場など魚を捌く仕事
7寸(210mm)以上と、5寸(150mm)を使い分ける
寿司店など和食の現場
195mmの本出刃と135-150mmの小出刃を使い分ける
釣りやご家庭など、まずは一本でなんとかしたい
165mm(5.5寸)前後をまず1丁
という方が多い印象です。
出刃包丁の柄
最後に、バランスを左右するのが柄付け(ハンドル)です。こちらも価格に大きく影響します。
大まかな特徴を図にしてみました。
黒檀や銘木系はお客様の目に入るカウンターで使われる柳刃で人気ですが、魚の処理は表ではされないことが多いです。手になじみ、比較的滑りにくい朴の木が人気です。
ただ刃が重い出刃包丁は、付け根に負担がかかりやすく口輪も割れやすいです。
ここから水滴が中子に染み、中子が腐食してしまうと交換時に割れ、その時点で包丁の寿命は終わってしまいます。
口輪や柄がひび割れた時は、早めに交換しましょう。
まとめ
いかがでしたか?かなり細かい要素に分けて説明させて頂きましたが、どんなことで価格に影響するかが分かれば、最終的には愛着を持って使い、メンテナンスをすることが大切です。
直感も大切にしながら、長く愛せる包丁を選びましょう。
1.良い包丁は「切れ味」「バランス性」「メンテナンス性」で選ぶ
2.愛着や見た目の良さは、メンテナンスへの取り組み方に関わる
3.出刃包丁は鋼を検討しても良いかも?
4.出刃包丁、どこ見て選ぶ?
5.出刃包丁のサイズ
6.出刃包丁のハンドル
著者紹介About the author
堺一文字光秀
田中諒
「切れ味で、つなぐ」堺一文字光秀三代目当主。 職人の技術と歴史、そして包丁にかける思いを皆様に届けて参ります。 辻調理師専門学校 非常勤講師 朝日新聞社 ツギノジダイ ライター
- 監修
- 一文字厨器株式会社(堺一文字光秀)